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名古屋高等裁判所 昭和51年(ラ)122号 決定

抗告人

株式会社リイベンス

右代表者

吉見明雄

右代理人

柘植錠二

相手方

株式会社振公交易

右代表者

陳振富

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

抗告人は「原決定を取消す。抗告費用は相手方の負担とする。」との裁判を求める旨申立て、その理由は別紙のとおりである。

記録によると、相手方は抗告人に対する名古屋地方裁判所昭和五一年(手ウ)第一九四号約束手形金請求事件の執行力ある仮執行宣言付手形判決正本にもとづき昭和五一年六月一七日同裁判所に抗告人の第三債務者株式会社名古屋相互銀行に対する債権(抗告人が本件手形判決の約束手形の不渡処分を免れるため社団法人名古屋銀行協会に提供する目的で第三債務者に預託した金員の返還請求権)について債権差押転付命令の申請をなし、同裁判所は一八同日審尋を経ないで右命令を発したこと、右命令は昭和五一年六月一九日午後二時抗告人にまた同月二一日午前一一時に第三債務者にそれぞれ送達されたこと、一方抗告人は本件手形判決に対して名古屋地方裁判所に異議の申立をなし、昭和五一年六月二一日本件手形判決にもとづく仮執行について強制執行停止決定を得て、同日午後一時四〇分に右決定正本の送達を受けたこと、以上の事実が認められる。右によれば抗告人は右の強制執行停止決定正本を右同日午後一時四〇分以後に執行裁判所に提出したものと推認される。

ところで、債権差押転付命令が適法に債務者及び第三債務者に送達された場合には、執行債権の弁済の効果が生ずる(民事訴訟法六〇一条、五九八条二項)ものであり、執行債権者は第三債務者の無資力の危険負担の下で優先的に債権の満足を得るものであるから転付命令が効力を生じた以上は強制執行は即時終了するものと解すべきである。

これを本件についてみると前記認定事実によれば、抗告人は本件差押転付命令が効力を生じた後に執行裁判所に停止決定正本を提出したものであることが明白であるから、もはや本件差押転付命令に対して不服を申し立てることはできないものといわなければならない。

ただ右のように解した場合には動産、不動産執行や債権執行のうちの取立命令の場合には現実に執行停止が得られるのに、転付命令の場合だけは事実上執行手続内において、救われないことになり、不均衡であると考えられるけれども、強制執行手続において平等主義の例外をなす転付命令制度を認める以上、右の不均衡はやむを得ないものという他はない。また将来本件手形判決が取消された場合には、抗告人は民事訴訟法一九八条二項の申立あるいは不法行為にもとづく損害賠償請求や不当返還請求ができるのであり、執行手続において、右の場合の相手方の資力の良否を考察する必要は全くないものといわなければならない。

所論の引用する裁判例は本件と異り、転付命令が発付される前に執行停止決定が発せられておりこれが執行裁判所に提出されていなかつた事案に関するものであり、本件と事案を異にし適切ではない。

なお、転付命令に対して即時抗告がなされ、その当否が本案の当否にかかつている場合には執行債権者に最終的満足を与えないで転付命令の優先的効果を保持せしめるというような規定をおいていない現行法のもとでは前記のように解するのが相当である。

よつて、本件抗告を不適法として却下し、抗告費用は抗告に負担させて、主文のとおり決定する。

(丸山武夫 杉山忠雄 高橋爽一郎)

【申立の理由】一、相手方は、抗告人の名古屋地方裁判所昭和五一年(手ウ)第一九四号約束手形金請求事件の手形判決の執行力ある正本に基づき、昭和五一年六月一七日同裁判所に債権差押ならびに転付命令の申請をなし、同裁判所は、同年六月一八日右申請をいれ、抗告人が本件約束手形の不渡処分を免れるため社団法人名古屋銀行協会に提供する目的で、第三債務者株式会社名古屋相互銀行大江支店に預託した金一三二万八、一〇〇円の返還請求権につき、差押ならびに転付命令を発し、右命令は抗告人及び第三債務者に対し、同年六月一九日それぞれ送達された。

二、しかし、抗告人は、昭和五一年六月一八日、右約束手形金請求事件の手形判決に対し、異議の申立をなすと同時に右手形判決につき、名古屋地方裁判所に、強制執行停止申請をなし、同月保証金六〇万円の決定を告知され、同年六月二一日「前記事件につき、本案判決のあるまで、前記判決の執行力のある正本に基づく強制執行はこれを停止する。」旨の決定を受けた。

三、ところで右のように債務名義の執行力が停止されている間は、この債務名義による強制執行は 許されないから、原決定はいずれも違法である。(東高裁昭和四九年(ラ)第一九〇号昭和四九年六月一七日民三決定、判例時報No.七五二、三九頁)

よつて、その取消を求めるため申立に及んだ次第である。

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